売り込まないメディアを、私たちはつくる - 庭が生まれるまで⑷ -

2026年07月22日配信

情報統合ファイリング、という言葉が生まれてから、
私たちは、「これをどう伝えるか」という問いに向き合うことになりました。

そこで、角川さんから、少し不思議な提案がありました。

「売り込まないメディアを、つくりませんか?」

普通のメディアは、売り込むもの

私たちの周りには、たくさんの企業ブログやオウンドメディアがあります。

記事の最後には、「お問い合わせはこちら」のボタン。
右側には、資料請求のフォーム。
下には、関連サービスの紹介。

それが、当たり前の風景です。

記事を読んで、興味を持った人に、次のアクションを促す。
そうやって、問い合わせや商談に繋げていく。

それが、メディアマーケティングの、王道です。

でも、それは私たちらしくない

角川さんは、しばらく黙って、こう続けました。

「山崎文栄堂は、30年間、売り込まない営業をやってきた会社ですよね。その会社がつくるメディアが、記事の最後で『お問い合わせはこちら』ってやっちゃうと、いままでの30年を、否定することになりませんか?」

その言葉に、私たちは、うなずくしかありませんでした。

私たちは、飛び込み営業もテレアポもやらない会社です。
訪問先で、必要ないものは買わないでくださいと言う会社です。
売上の70%は、社会貢献の話をする会社です。

その私たちが、Webの上だけ、いきなり「お問い合わせはこちら」を連打しても、
それは、私たちの姿ではありません。

動く1社のために、99社にも

思い出したのは、社長のあの言葉でした。

「100社に行っても、動くのは1社。でも、残りの99社に、価値を残すことが大事なんです」

角川さんは、この言葉を、メディアの根っこに置きたいと言いました。

「動く1社のために、動かない99社にも、価値を残す」

これが、私たちのメディアが、目指すべき姿だと。

デジタルガーデンという考え方

角川さんは、ある考え方を教えてくれました。

「デジタルガーデン」。

1998年に、ある研究者が提唱した、Webメディアの一つの形です。

普通のブログは、新しい記事が上に来て、古い記事が下に沈んでいきます。
時系列で並ぶ、雑誌のような構造です。

でも、デジタルガーデンは違います。
記事を、時系列ではなく、テーマと成熟度で整理していく。
「まだ書きかけの記事」も、「育っている途中の記事」も、「完成度の高い記事」も、庭の中で共存する。

大勢に語りかけるのではなく、自分自身に語りかけるように書く。
数字を追うのではなく、思想を育てる。

この考え方を聞いた時、私たちは、直感的に思いました。

「これは、私たちらしい」

5つの原則

角川さんは、私たちのメディアのために、5つの原則を提案してくれました。

一つ、記事の最後に、商品リンクを置かない。
二つ、テンプレのCTA表現を使わない。
三つ、動かない読者にも、価値を渡す。
四つ、誘導の言葉に、社長や社員の哲学が宿る。
五つ、製品紹介は「サービス」ではなく「考え方」を語る。

最初は、正直、戸惑いました。
「本当に、それで大丈夫なんだろうか?」と。

けれど、話し合っていくうちに、
これこそが、山崎文栄堂の、30年の営業の延長線上にあるのだと、腑に落ちていきました。

宮地の言葉

この方針を確認するミーティングで、宮地が、こう言いました。

「他のBox代理店は、みんな『お問い合わせはこちら』ってやってますよね。売らない代理店だけが、記憶に残るってことですよね」

その通りです。

売らないメディア、動かないメディア、育てるメディア。
それが、差別化になる。

3年後、5年後に、
「そういえば、山崎文栄堂って、売り込まない会社だったよね」
と、思い出してもらえる。

その積み重ねが、私たちの資産になっていく。

庭を、育てていく

こうして、私たちのメディアの、輪郭ができてきました。

売り込まない。
数字を追わない。
動かさない。
ただ、育てていく。

その考え方は、後に、「庭」という言葉と、出会うことになります。

けれど、それはまた、別のお話です。

執筆:山崎文栄堂 櫻井友子・宮地宏彰 / 編集:角川英治(株式会社フブキ)