情報統合ファイリング、という言葉が生まれてから、
私たちは、「これをどう伝えるか」という問いに向き合うことになりました。
そこで、角川さんから、少し不思議な提案がありました。
「売り込まないメディアを、つくりませんか?」
私たちの周りには、たくさんの企業ブログやオウンドメディアがあります。
記事の最後には、「お問い合わせはこちら」のボタン。
右側には、資料請求のフォーム。
下には、関連サービスの紹介。
それが、当たり前の風景です。
記事を読んで、興味を持った人に、次のアクションを促す。
そうやって、問い合わせや商談に繋げていく。
それが、メディアマーケティングの、王道です。
角川さんは、しばらく黙って、こう続けました。
「山崎文栄堂は、30年間、売り込まない営業をやってきた会社ですよね。その会社がつくるメディアが、記事の最後で『お問い合わせはこちら』ってやっちゃうと、いままでの30年を、否定することになりませんか?」
その言葉に、私たちは、うなずくしかありませんでした。
私たちは、飛び込み営業もテレアポもやらない会社です。
訪問先で、必要ないものは買わないでくださいと言う会社です。
売上の70%は、社会貢献の話をする会社です。
その私たちが、Webの上だけ、いきなり「お問い合わせはこちら」を連打しても、
それは、私たちの姿ではありません。
思い出したのは、社長のあの言葉でした。
「100社に行っても、動くのは1社。でも、残りの99社に、価値を残すことが大事なんです」
角川さんは、この言葉を、メディアの根っこに置きたいと言いました。
「動く1社のために、動かない99社にも、価値を残す」
これが、私たちのメディアが、目指すべき姿だと。
角川さんは、ある考え方を教えてくれました。
「デジタルガーデン」。
1998年に、ある研究者が提唱した、Webメディアの一つの形です。
普通のブログは、新しい記事が上に来て、古い記事が下に沈んでいきます。
時系列で並ぶ、雑誌のような構造です。
でも、デジタルガーデンは違います。
記事を、時系列ではなく、テーマと成熟度で整理していく。
「まだ書きかけの記事」も、「育っている途中の記事」も、「完成度の高い記事」も、庭の中で共存する。
大勢に語りかけるのではなく、自分自身に語りかけるように書く。
数字を追うのではなく、思想を育てる。
この考え方を聞いた時、私たちは、直感的に思いました。
「これは、私たちらしい」
角川さんは、私たちのメディアのために、5つの原則を提案してくれました。
一つ、記事の最後に、商品リンクを置かない。
二つ、テンプレのCTA表現を使わない。
三つ、動かない読者にも、価値を渡す。
四つ、誘導の言葉に、社長や社員の哲学が宿る。
五つ、製品紹介は「サービス」ではなく「考え方」を語る。
最初は、正直、戸惑いました。
「本当に、それで大丈夫なんだろうか?」と。
けれど、話し合っていくうちに、
これこそが、山崎文栄堂の、30年の営業の延長線上にあるのだと、腑に落ちていきました。
この方針を確認するミーティングで、宮地が、こう言いました。
「他のBox代理店は、みんな『お問い合わせはこちら』ってやってますよね。売らない代理店だけが、記憶に残るってことですよね」
その通りです。
売らないメディア、動かないメディア、育てるメディア。
それが、差別化になる。
3年後、5年後に、
「そういえば、山崎文栄堂って、売り込まない会社だったよね」
と、思い出してもらえる。
その積み重ねが、私たちの資産になっていく。
こうして、私たちのメディアの、輪郭ができてきました。
売り込まない。
数字を追わない。
動かさない。
ただ、育てていく。
その考え方は、後に、「庭」という言葉と、出会うことになります。
けれど、それはまた、別のお話です。
執筆:山崎文栄堂 櫻井友子・宮地宏彰 / 編集:角川英治(株式会社フブキ)